『ドライブ・マイ・カー』カンヌ映画祭脚本賞受賞記念 村上春樹のおすすめ長編小説5選!

2021年7月17日、第74回カンヌ国際映画祭にて、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が脚本賞を獲得しました!日本の作品が脚本賞を受賞するのは初めてのことです。

『ドライブ・マイ・カー』は、村上春樹の短編小説が原作。2014年発表の短編集『女のいない男たち』に収録された作品で、妻に先立たれた俳優が、運転手に雇った女性との交流の中で、心の傷を再生しようとする物語です。

そこで今回は、村上春樹のおすすめの長編小説を紹介していこうと思います!

毎年なんだかノーベル文学賞の候補になって大騒ぎしてるし、熱狂的なファンも多いよねー

『風の歌を聴け』(1979)

村上春樹の小説家デビュー作、『風の歌を聴け』です。

大学生の「僕」は地元の港町に帰省し、その夏、友人の「鼠」と行きつけのバーで、とにかく浴びるようにビールを飲みます。ある日、トイレで酔いつぶれていた女性と出会い、交流が始まります。

小説家になる前、大学を卒業後、ジャズ喫茶を経営していた村上は、ふと小説を書くことを思いつきます。そこで、店の営業が終わった早朝、毎日毎日ダイニングテーブルで執筆し、出版社に送ってみたところ、これが第22回の群像新人文学賞を受賞しました。

固有名詞がついていない登場人物たちの軽妙な会話と、外国語を直訳したような独特の文章リズムには、それまでの日本の文芸にはなかった目新しさがありました。

40年以上前に発表されましたが、今でもさらっと読むことができる、シンプルで普遍的な作品です。

その後、同じ主人公の続編、『1973年のピンボール』(1980)『羊をめぐる冒険』(1982)『ダンス・ダンス・ダンス』(1988)が発表されました。

『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(1985)

全体の構造は、「世界の終り」と「ハードボイルド・ワンダーランド」の2章立てになっています。

じゃあ2冊に分ければよくない?

それぞれの物語が、1章ずつ交互に進行していきますが、その2つがいつしか交差して、互いにはらみ出ていくことになります。

「ハードボイルド・ワンダーランド」の主人公の「私」は、企業秘密や研究データなど、重要な情報を暗号化する「計算士」です。ある日、奇妙な老人に、現在では禁止されている、潜在意識にデータをくぐらせて暗号化する「シャフリング」と呼ばれる特殊な技術を依頼されます。しかしそれがスイッチとなり、少しずつ世界がゆらぎ始めるのでした。

一方の「世界の終り」の主人公は「僕」です。周囲をすべて壁に囲まれた奇妙な街に訪れた「僕」は、門番に「影」を引き剥がされたことで、過去の記憶を失います。そして、その街で、図書館に務める女の子の助けを借りながら、一角獣の頭骨から「夢」を読み取る仕事を始めることになります。しかし、次第にある「計画」に巻き込まれます。

『ハードボイルド〜』の方は、レイモンド・チャンドラーの探偵小説のごとく、その名の通りハードボイルドに話が進んでいきます。一方で、SF要素もあります。他の作家では、伊坂幸太郎が好きな人にはぴったりかもしれません。『世界の終り』は、ファンタジー要素を感じられる静かな世界で、いしいしんじ吉田篤弘が好きな人にはおすすめではないでしょうか。

『ノルウェイの森』(1987)

超・ベストセラーになった一作です。

主人公のワタナベは、東京に住む大学生です。ある日、電車の中で偶然、直子に出会います。彼女は、高校生のときの友人・キズキの恋人でした。キズキは、高校3年生のときに、突然、原因不明に自殺をし、それはワタナベと直子に大きな心の傷を残していました。再開した2人は次第に惹かれ合い、直子の20歳の誕生日に体の関係を結びますが、その直後に心を病んだ彼女は、京都にあるサナトリウムに入ります。

村上春樹の小説は、「マジック・リアリズム」とも言われ、いわゆる「ファンタジー」の体裁はとっていないのに、とつぜん非日常的なキャラクターが現れたり、超自然的な展開が起きます。これが魅力でもあり、好みを分けるところでもあります。

「読書は好きなんだけど、村上春樹は苦手」って人ときどきいるよね!

しかし、本作にはその要素がありません。長編小説では唯一と言ってもよいでしょう。そのため、最初に読むには、とっつきやすいかもしれません。

2010年にベトナム出身の監督・トライ・アン・ユンによって映画化され、松山ケンイチ、菊地凛子、水原希子、玉山鉄二らが出演しています。

『アフターダーク』(2004)

真夜中のファミリーレストラン、1人で過ごす大学生のマリに、偶然来店したバンドマンの高橋が声をかけます。彼は、マリの姉の同級生でした。彼がバンドの練習のため去ると、次はホテルの経営者、カオルがやってきます。彼女によると、ホテルの部屋で暴行事件があったとのこと。被害者の中国人の娼婦から事情を聞くために、中国語を話せる人を探していたところ、ちょうど高橋に紹介された、と言います。マリはその申し出を受け入れることにしました。

本作は、これまでの小説とは毛色が異なります。

まず1つ目は、三人称の視点で書かれているということ。村上春樹の小説は、それまでは短編を除き、すべて主人公は「僕」か「私」の一人称でした。しかし今回は、「マリはうなずく」「彼は考え込む」のように、三人称が用いられています。

2つ目は、ほとんどの文が現在形で書かれているということ。通常の物語は、過去に起こったことを著すものなので、「彼は言った」と過去形が使われます。しかし本作では、「彼は言う」といったように、現在形が使われています。このことにより、不思議なドライブ感が感じられます。

3つ目は、深夜から明け方までの、一晩だけの物語だということ。こちらも他に例がありません。

このように、かなり実験的な要素のある作品であり、珍しい一作です。

『1Q84』(2009)

『1Q84』は3部構成で、BOOK1と2が2009年の5月に、BOOK3が2010年の4月に発売されました。

スポーツジムでインストラクターをしている青豆には、もうひとつの顔がありました。富豪の老婦人の指示の元、DVの加害者を、外傷をつけずに秘密裏に殺す仕事です。彼女はあることをきっかけに、これまでと異なった世界線にさまよい込んだ感覚にかられます。一方、もうひとりの主人公、塾講師の天吾は、「ふかえり」という不思議な少女が書いた奇妙な小説を手直しするゴーストライターの仕事を持ちかけられるのでした。

章ごとに主人公が変わる構造は、前述の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』や『海辺のカフカ』(2002)でも取り入れていた手法です。また、3部構成で、1巻と2巻を同時に発売、翌年に3巻を発表するのは、『ねじまき鳥クロニクル』(1994)と同じです。(それ以外にも、あっと驚く『ねじまき鳥』との関連性もあります)

村上は、1997年に『アンダーグラウンド』というノンフィクションを発表、それは、1995年に起きた地下鉄サリン事件の被害者や関係者にインタビューをする作品でした。また、1998年にはその続編にあたる、『約束された場所で』を描き下ろします。こちらは、オウム真理教の信者に取材をしています。本作では、「さきがけ」という宗教法人が登場し、その教祖に当たる人物が重要な役割を担います。それは、ある見方では、オウム真理教が信者を囲い込んでいた構造を連想させます。

そんな社会的な部分もありながら、一方ではラブストーリーでもあります。青豆と天吾は、小さな頃に出会っていて、時を超えて惹かれ合います。このよううな運命的な恋愛は、『国境の南、太陽の西』(1992)でも描かれていました。

このように、様々な要素が入り組んだ総合小説であり、作家としての集大成とも言えるのではないでしょうか。

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